天地創造女神神話

始まりは何であっただろうか。



そこは、宇と宙に隔たれた大地であった。

薄暗い、荒涼とした大地。

乾き澱んだ風。

流れを知らず留まる水。

吹き上げる灼熱の業火。

かの惨状を憂い、いずこより四つの意志が集いた。



「かの地に溢るる生命の営みを」



それは意志たちの内に生まれた愛の詩。
ただただ、生命の祝福を祈る詩。

鮮やかに。

健やかに。

無音の世界に波動が生まれた。
波動は意志たちの下に集い、やがて意志たちの想いと重なり、そっと詩を紡いだ。

意志たちの詩は金色の波動となり世界を優しく、温かく、柔らかく包んだ。
幾重にも波が重なり、うねり、世界に波及する。
それは世界中に広がり、世界に僅かな生命の種を落とした。
あるものは植物として根付き、あるものは動物として生を受け地に足を付けた。
小さな生命たちはその連脈を伸ばし繋ぎ、世界に最初の生命の礎を張り巡らせ、意志たちは詩の恵みを受け受肉した。

四姉妹の長女は広大なる大地を司る黄霊穣姫・シトラナヴィーゼ。
母なる大地はすべての生命を育み生命の円環を見守る。

四姉妹の次女は天空を自由に駆け巡る風を司る翠風紡后・フィルフレイラ。
どこまでも限りない蒼穹は無限の可能性を生み出し世界を駆ける。

四姉妹の三女は静かに沸き出る水を司る蒼氷柩命・サーシュレイニア。
滾々と溢れる膨大な知識はやがて「魔法」と呼ばれ世界を礎る。

四姉妹の末娘は迸り燃え盛る炎を司る紅華仙ノ宮・トリスティア。
生命の最期のかがり火を見送り世界に生命の灯火を燈し続ける。

四姉妹はそれぞれの想いを四つの樹に託し、世界を見守ることにした。
そして最後にこの世界に名前をつけた。

「クラ(輝ける)・フ(黎明の)・ファーゼ(楽園)」と。

クラ・フ・ファーゼのほぼ全域で信仰されている四女神信仰神話。
多少の違いはあれど、四人の女神が「原初の詩」を紡ぎ、この世界を創造をなされたことは共通している。
ただ、肝心の「原初の詩」がどのような詩であったか、どのような想いの詰められたものであったのか、 クラ・フ・ファーゼで数ある言語の中で、どのような言語で謳われたのかなどはまったくと言っていいほど伝承や文献が残されていない。
探求者たちの間では、その強大な力を持つ詩ゆえに、四女神たちがあえて詩を封印したのではないかと提唱する者もいるが、真偽は定かではない。