大神異見聞録・外伝

POWDER SNOW

  • 冷たいー。

    ここ、タカマガハラにもはらはらと新雪が舞っていた。
    吐く息は白く、手先は凍えるように寒い。
    ウシワカは一人、雪降る庭園に佇んでいた。
    アマテラスの居城に作られた広い庭園で、今は椿が競うように咲き誇っている。
    「ウシワカ」
    後ろからの声に、ウシワカはゆっくりと首をめぐらせる。
    さくさくと軽く雪を踏んでやってきたのはアマテラスとクロウにチビテラスたち。
    クロウとチビテラスに完全防備で初めて見る雪におおはしゃぎでこちらにやってくる。
    「ねぇウシワカ、アマテラス!この白いのはなんていうんだい?冷たくて美味しいよ!」
    「スノウ。雪だよ、クロウ」
    くすくす笑いながらウシワカはクロウの頭を撫でてやる。
    「スノウ…素敵だね!」
    そうにっこり微笑んだクロウは、チビテラスと一緒になって庭園に駆け出した。
    走り回っては転んで、笑って、また走り出して。
    子供の好奇心と元気はすごいなぁ、とウシワカはひとりごちる。
    「今日は凍神くんのお勤めかい?」
    「ええ。この季節、彼女の神力が高まりますから、こうやって発散してもらっているんです」
    タカマガハラ御三家の一柱である凍神の神力は強大で、すべての原子を凍てつかせる。
    夏は弱まるが、冬になると一年蓄積した神力が膨れ上がり、こうやって外界に放出しないと
    肉体が保てなくなってしまうほどだ。
    これでも幽神が特別に調合した薬草を使った水煙草を服用して、威力は抑えているほうだ。
    どこか遠くから、法螺貝を吹く音が聞こえた気がした。
    「…何を、考えていましたか?」
    ウシワカの顔を覗き込むアマテラスの顔は、雪さえも溶かしてしまうかのように柔らかく、温かい。
    一瞬、惚けたような顔をしたウシワカだったが、すぐに小さく笑ってみせた。
    「…子供の頃は…ミーも雪が好きだったんだ。真っ白に降る、この白い雪が」
    アマテラスは「うん」と小さく頷いて先を促した。
    「でもタカマガハラからナカツクニに落ちて…
    この白い雪が、全部埋め尽くしてくれればいいなって思うようになって…。
    ミーの罪も、ミーのことも、全部…全部。でも、何も…何一つ消えやしなかった。
    むしろ、雪が舞い落ちるたびに思い出が、罪が、ミーの記憶から呼び起こされて…怖くて…
    白い闇に捕らわれてしまうのが怖くて…だんだん嫌いになっていったよ」
    「…今は…?」
    責めるでない、ただ何気ないアマテラスの言葉に、ウシワカは気づいたら笑っていた。
    「君と…あの子たちと見れる雪が…こんなにも胸に沁みるんだ。
    美しいと思えるのは…やっぱり君が、あの子たちが、この世界を救ってくれたからなんだろうね」
    その言葉に、アマテラスはゆっくりと繊手をウシワカの頬に伸ばした。
    「その中には…ウシワカもちゃんと入っていますよ」
    アマテラスの手は少し冷たく、ウシワカはその体温を噛みしめるように目を閉じた。
    告げられた言葉はウシワカの心に灯を灯すのに十分な温かさを持っていた。
    「ありがとう…そうだね、ミーたちが守った…とってもビューティフルな世界だよ…」
    ウシワカの言葉に、アマテラスはにっこりと微笑んでみせた。
    ウシワカもつられて微笑む。

    もう、この白い雪に怯えなくていい。
    自分の居場所はここにある。

    その喜びに、ウシワカは再びそっと目を閉じた。
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    「PS4 大神絶景版」発売記念&新年のご挨拶代わりのSSです。
    もうなんかね、幸せそうなウシワカ隊長が書ければぼかぁ幸せなんスよ…!
    今年もちょこちょこ大神関連が更新できれば、と思いますヽ(・∀・)ノ