大神異見聞録・本文

珠洲の章・第弐話「家族」

  • 「…はっ…!?」
    荒く息を吐き、アマテラスは目を覚ました。
    肩で息をしているうちに薄暗い闇に目が慣れ、月明かりに照らされた見慣れた天井にアマテラスはようやく呼吸を落ち着ける。
    まだ苦しむ胸を押さえ、高鳴る動悸を抑えようと乱れた夜着の胸元をぎゅっと握り締める。
    その握り締めた手の平が熱くどくどくと波打ち不思議な熱を帯びる。
    そして鈍いあの感覚。
    大気を振るわせる、魂消るような妖怪たちの声。
    まるで指先から体温を奪われ、同時に何者かが自分の意識を侵食し侵入してくるようなあのおぞましい感触…。
    その感覚を思い出し、アマテラスはぶるっと大きく身を奮わせた。

    生まれたばかりのナカツクニの大地はまだ三貴子の力が定着せず、非常に不安定な状態だ。
    大地の楔が安定するまでは不安定な闇の綻びから妖怪どもが湧き出し、ナカツクニの大地に潤う三貴子の力を啜り、理の安定を阻もうとする。
    そうなってはいつまでもナカツクニに生命が育たたず、生命が宿らないナカツクニはやがて腐敗し原始の海に沈むだろう。
    そうなってはまた国創りを改めなければならない。
    ナカツクニの崩壊は、原始のナカツクニの大地より生まれ出でた三貴子・スサノヲにも影響を及ぼす。
    ナカツクニ崩壊はすなわちスサノヲの消滅を意味する。
    そうなることで安定しかけている理が歪み、再び世界は混沌に帰す。
    それだけは避けなればならない。
    (…妖怪とはいえ、この世界に息づいた、生きている生命ではないの…)
    そのことに気づいてしまった。
    最初はナカツクニの、最愛の弟のためにと剣を振るっていたアマテラスだが、その剣から伝わる妖怪たちの断絶魔が耳にこびりついて離れない。
    声なき声は生を渇望し、光を望んでいた。
    理の歪みより生まれた異形の者たちは、中には己の存在自体を嘆くものもいた。

    何故醜い姿で生まれたのか、と。
    何故光を見ることを許されないのだ、と。

    それはアマテラス自身の未熟ゆえでもある。
    自らに与えられた神力を安定させられずにいる自分が情けなくて、それが原因となり理の歪みを作ってしまっているのに、
    望まれずに生まれた妖怪たちを切り捨てなければならない。
    それがアマテラスにはどうしても割り切れないでいた。
    (私…私のせいで…)
    (早く…早くなんとかしなくては…)
    声も上げられず、アマテラスは紅玉の瞳に大粒の涙を滲ませた。
    ツクヨミもスサノヲも、そんなことで心を痛める必要はないという。

    三貴子の力を横取りし、大地の安定を邪魔しているのは妖怪たちなのだから退治されて然るべきなのだとスサノヲは言い放つ。

    退治されているのではなく自身の光の力で浄化してやれば、歪な理より生まれた妖怪たちでさえ正常な理の円環に戻してやることができるのだとツクヨミは優しく諭す。

    (分かっている…分かっているの…でも…!)
    妖怪たちの消滅の間際に放たれた呪詛の言葉。
    己の罪深さに、そして自分に向けられた敵意、羨望、憎悪…。
    それらの感情にさらされ、自室の暗闇ですら恐怖を感じる。
    だが、そのことをツクヨミやスサノヲに言えずにいた。
    二人に妖怪たちを浄化する力はないが、少しでもアマテラスの力になろうとそれぞれの力を振るってくれている。
    ツクヨミは八尺瓊勾玉を操り、スサノヲは天叢雲剣を振り回し妖怪たちを屠ってゆく。
    妖怪退治を二人に任せ、アマテラス自身はタカマガハラで見守るようにするしかないのだろうか?

    そんなアマテラスの部屋の扉を軽く叩く音がした。
    びくりと肩を震わせ、呆然と扉を眺めるアマテラスに、再び扉が叩かれる。
    「私だよ、アマテラス。起きているよね?」
    「あに様…ご、ごめんなさい、すぐ開けます」
    慌てて涙を拭い、夜着を整えてから何事もなかったかのように扉を開ける。
    部屋の外では夜着のツクヨミと、ツクヨミに手を引かれたスサノヲが待っていた。
    「まぁ…スサまで…どうなさったの?」
    努めて笑顔のアマテラスに、ツクヨミは心配そうに目を伏せる。
    スサノヲはツクヨミから離れアマテラスに歩み寄ると、その右手をぎゅっと握り締めた。
    「スサ?」
    「あねうえ、泣いてたの…?」
    まっすぐなスサノヲの瞳に見つめられ、アマテラスはぎくりと身を強張らせる。
    それでもふわりと花がほころぶような優しい笑みを浮かべ、スサノヲと視線が同じになるように身をかがめるとその瞳を覗き込むようにして「そんなことないわ」と微笑む。
    そのアマテラスの目尻にツクヨミの手が伸び、涙で少し突っ張った頬を撫でる。
    「よほど泣いたのだね…少し目が赤いようだけれど」
    「あっ…いえ、その…少し、疲れてしまっていて」
    「アマテラス」
    ツクヨミの両手が包みこむようにアマテラスの顔に触れる。
    正面からツクヨミに見つめられ、アマテラスは何も言えなくなってしまう。
    心の内まで見透かすようなツクヨミの黄金の瞳。
    どこか人を探るような鋭さを持ちながら、同時に天までも地までも包み込むような優しさを称えた瞳だ。
    じっと見つめられ、知らず知らずアマテラスの瞳に涙が浮かび、思わずくしゃりと顔が歪む。
    その様子に、ツクヨミもふっと優しく微笑む。
    「あに様…私…私…!」
    「うん…辛かっただろう?我慢しなくていいのだよ、アマテラス」
    低く柔らかなツクヨミの声音に、ついにアマテラスは我慢できずにその胸に飛びついた。
    「うぁ…あぁああ…!!うわぁああああああん!」
    声を上げて泣きじゃくるアマテラスに、スサノヲもたまらず姉の背中にしがみつく。
    「あねうえ、あねうえ…」
    「スサ、大丈夫だよ。今は泣かせておあげ」
    言いながらツクヨミはアマテラスを抱きかかえ、彼女の寝所に入っていく。
    スサノヲも静かにその後をついてゆく。
    寝台に腰掛け、アマテラスが泣き止むまでツクヨミは彼女を抱きかかえたままずっと頭を撫でていた。
    その隣で、兄にならってスサノヲもしきりに姉の髪を撫でる。
    優しく優しく。
    少しでも自分の体温を感じてもらおうてとして。
    そうすることで「一人ではないよ」と伝えたくて。
    激流の勢いで泣いていたアマテラスの泣き声が次第に弱くなり、嗚咽に変わり、はぁっと長い息を吐き出し、
    顔を上げ、自分で涙を拭うようになるようになる頃、半刻ほどが過ぎようとしていた。
    「…あねうえ、だいじょうぶ?」
    おずおずと遠慮がちなスサノヲに、アマテラスは「うん、平気」と、今度こそ心からの笑みを浮かべる。
    それだけで場の空気が浄化されていくような清々しい笑みに、スサノヲもようやく安堵の息を吐く。
    「ありがとう、スサ。ごめんなさい、あに様…子供みたいに泣いてしまって」
    「…まったく…お前にいつになったら私やスサをちゃんと頼ってくれるのかな?」
    ツクヨミの言葉にアマテラスはえっと驚く。
    「お前はなんでもかんでも一人で背負いすぎだよ…私たちは家族なのだから。
    苦しい時は私やスサに話していいのだよ?」
    「で、でも…これは私の務めですから…」
    「あねうえ!あねうえがつらい時は半分こなんだよ!」
    突然間に割り込んできた弟に、アマテラスはきょとんと目を大きくする。
    「あにうえが言ってたよ!えーと、えーと」
    「そうだね、スサはよく覚えていたね…
    いいかい、アマテラス。何故我々は単一神ではなく、三人いるのだと思う?」
    「え…」
    言われてみれば。
    光も闇も、大地の理も一人で管理すれば効率よく治められ、今以上に早く理を安定させられるだろう。
    あれこれ悩まずに自分の思うままに、思う世界を創れる。
    そのほうがいっそ楽なのではないかと、考える。
    だがー。
    「…一人では…寂しいから?」
    どんなに強大な力を振るおうと、たくさんの生命を芽吹かせようと『神』は大地に生きる生命たちとは違う理の中で生きている。
    永遠にも等しい、気の遠くなるような時間を過ごす孤独。
    自分以外の存在を知らず、ただ一人理を見守るだけの時間。
    言葉を交わすことも、温もりも知らずに流れる悠久の刻。

    それは一体どれほどの寂しさを伴うのだろう?

    「そう、きっとそれもあると思う…我々が三人でいることには、何かしら意味があるのだよ、アマテラス。
    我々を生んだイザナギ神はすでに神代に去り、その真意は伺えないが…
    彼は、家族が欲しかったのではないだろうか?」
    「家族…?」
    「そう。自分以外に自分を知る存在だよ。共に悠久の時間を過ごし、感情を分け合える存在…
    もしかすると【仲間】だったり【恋人】だったりするのかもしれないけれど、一番自分にとって
    身近にあるのは【家族】…血肉を分け合った、自分と同じだけれど自分とは違う…
    何より同じ風景を見つめることができる存在ではないかと思うんだ…」
    「感情を、分け合う…」
    「あのね、あねうえ?みんなで分けると『楽しい』や『嬉しい』はふえて、『悲しい』や
    『苦しい』はへっちゃうんだよ…だから、あねうえの『悲しい』や『苦しい』を、
    ぼくとあにうえにも分けて?」
    スサノヲの言葉に、またもアマテラスの瞳が涙で揺らぐ。
    「でも…その『悲しい』や『苦しい』を、あに様やスサに背負わせたくは…」
    「お聞き、アマテラス」
    ツクヨミはそう言うと、アマテラスを右に、スサノヲを左の膝の上に座らせ、二人同時に背中から抱きしめる。
    「私もスサもね、お前が大好きなんだ。そんなお前の悲しむ顔を見るほうが辛い…
    私やスサにとって、お前の悲しみを請け負うことなど、さした問題ではないのだよ。
    それよりも、そうすることでお前の悲しみが少しでも癒されるのなら、私はそのほうがとても嬉しい」
    「ぼくも嬉しいよ、あねうえ…ぼくね、あねうえにはいつも笑っててほしいんだ。
    あねうえはやっぱり、笑ってるお顔が一番好き」
    二人の嘘偽りのない言葉が、まるで氷を溶かすかのようにアマテラスの心をほぐしてゆく。
    先刻、あんなに泣き伏したのに、また両目に涙があふれてくる。
    「あ、あに様…私…」
    「うん。なんだい?」
    抱きしめられ、耳元で囁かれた優しい言葉が波紋のようにアマテラスの心の湖に広がってゆく。
    「もう…できません…」
    「…」
    「理の歪んだ者たちとはいえ…あんなにも生きることを望んでいる生命を刈るなど…私には…できない…」
    喉の奥から搾り出すような声と同時に、紅玉のようなアマテラスの瞳からはらはらと、静かに涙が零れ落ちる。
    「でき…ません…ううん…もう、したくない…!!」
    言いながら両手で顔を覆い、声を押し殺して泣くアマテラスを、今度はスサノヲが抱きしめる。
    「あねうえ…気づかなくてごめんなさい…ごめんなさい」
    涙を零すまいと必死に唇を噛み締めていたが、ついに我慢できずにスサノヲまで一緒に泣き出してしまう。
    膝の上で泣きじゃくる二人をツクヨミは何も言わずにただ抱きしめた。
    その悲しみをすべて己が吸い取ろうとするかのように二人を抱きしめ、髪を撫で肩を叩いてやった。
    やがて泣き声がすすり泣き声に変わり、それさえもやがて安らかな寝息へと変わってゆく。
    涙で目元がぐちゃぐちゃになった二人の顔を、様子を見に来た天神族のアズミに言いつけて濡れた手ぬぐいを
    用意してもらい、二人を起こさないようにそっと拭ってやる。
    泣き腫らして目が腫れているが、その顔にもはや苦痛はない。
    二人の頭を撫でてやりながら、ツクヨミはふと想いを巡らせる。
    そうして安らぎを与えてやることでしか、苦痛を取り除いてやることができない…。
    いっそ、自分が変わってやることができたらどんなにいいだう。
    アマテラスの手は剣を握るのには細すぎ、その心は戦に染まるには純粋で繊細すぎる。
    本来ならば大地をあまねく照らし生命に恵みと暖を与え、育み、その営みを見守るだけのはずなのに…。
    (何故この子がその宿命を与えられた?)
    (何故男子の私やスサノヲではなく女子のアマテラスなのだ?)
    「何故…我らは心を持っているのだ…」
    心など、何故持たなければならなかったのだろう。
    想いなど、苦痛だけではないか。
    自分以外の存在を気にかけるからこそ、心を焼かれるような、窒息してしまいそうなほど痛く、辛い思いをしなくてはならない。
    先刻、アマテラスに説いたこととはまったく正反対の想いがツクヨミの胸の内でざわめく。
    自分一人ならば、こんなに苦しむこともなかっただろう。
    唯一人の神であったなら。
    自分のこの手で天叢雲剣を振るえたならば。
    陽と陰の理もすべて自分のこの手で操れたなら。
    誰も涙を流さずに済んだだろうに。
    と、同時に、今のツクヨミにとって、それはとてつもなく恐ろしいことのように感じる。
    アマテラスやスサノヲのいない世界。
    そんな世界、果たして自分に意味があるのだろうか?
    自分の考えの愚かさに、ツクヨミは自嘲する。
    アマテラスがいなければ、自分を識ることもなかった。
    アマテラスの光があってこそ自分の存在を認識できた。
    「…お前の光が…私に生を与え、存在を与え、生きることを教えてくれたのだ…」
    泣き疲れて今は安らかな寝息を立てるアマテラスの銀髪を一房手に取り、そっと口付ける。
    自分の腕で眠るこの小さな鼓動が、体温が。
    ただただ、いとおしい。

    このいとおしい存在を護るために、自分は、何をしたらいい?
    誰も傷つかない世界とは、一体どんな世界なのだろう?

    【光のない、常闇の世界。生と死、朝と夜の境界のない混沌の世界…というのはどうじゃ?】

    不意に耳元で囁かれたような女の声音に、ツクヨミは驚き、目を見開く。

    【元は一つであった混沌が無理やり光と闇に引き裂かれ、今の現世の理の楔が打たれたのじゃ。
    そなたとアマテラスは元々は一つの存在であった。そうであろう?】
    ツクヨミは答えない。女の声が何もない虚空に妖しく響く。

    【そなたの心は間違っておらぬぞ、ツクヨミよ。
    そなたがアマテラスを欲するは元はそなたの半身であるが故。
    その苦しみも葛藤も、そなたの闇に融ければすべて泡沫の夢。
    そなたの望む世界は、すでにそなたの手の中にあるぞ】

    艶かしく、見えない糸が全身に絡まるような。
    ねっとりと妖しく囁く女の声音にツクヨミの額の飾環がチリチリと痛む。
    その痛みに耐えるツクヨミの額に玉のような汗が浮かぶ。

    【何を迷う?そなたはただそなたの心に従えばよいだけ。世界を再び混沌に戻せばよいこと】
    「…その何もない混沌で、私は光を見つけた…」

    ツクヨミの手が、すがるようにアマテラスの衣の端を掴む。
    「アマテラスという光があってこそ、闇が生まれる。私が私足りえるのだ…
    光なき世界など…私は、望まない…」

    肩で息をし、なおも歯を食いしばり虚空を睨むツクヨミ。
    その視線の先で。
    闇の向こうで、にぃ、と笑う三日月型の唇があった。
    しばらくそこにとどまり続けていたねっとりとした気配が、やがて風にかき消されるように消えた。
    と同時にツクヨミの全身からどっと汗が噴き出す。
    何日か前から、自分の支配下にある闇に紛れ、何者かが自分に語りかけている。
    それが何なのかは分からない。
    妖怪たちと同じ気配-さらに強大な邪悪を感じさせるその気配だが、不思議とその中の片鱗に懐かしさを感じる。
    その存在がツクヨミに語りかける。
    『こちら側』に来い、と。

    闇よりも深い深淵の常闇に、呼ばれているー。

    ぐっと握り締めた手にそっと柔らかい温もりが触れた。
    ぐっすりと深い眠りに落ち、投げ出されたアマテラスの手だ。
    とくとくと確かに脈打つ、生気に溢れた光そのもの。
    光に祝福され眩い明光に照らされた世界は麗しいだけではない。
    その光により映し出された自分の影の部分。
    まだ光も闇もなく混沌とした世界でただひたすら渇望していただけの存在であった頃の自分。
    自分と対になり得る唯一無二の存在。
    アマテラスが生まれ、ただの混沌であったはずの自分が光に照らし出され、その影であることを存在づけられ
    「ツクヨミ」という一柱の神として存在することができた。
    自分とは違い、自ら光り輝きすべてを照らすアマテラスを初めて見たとき、なんと美しいと感じたか。
    混沌の中で狂おしく求めていたものはこの光であったのだと。
    アマテラスは自分の為に生まれてきたのではないかと錯覚したほどだ。
    そのアマテラスが、自分以外の為に命を削るような苦しみに苛まれている姿は実に痛ましい。
    まだ見ぬ、ナカツクニの大地に生まれてくるであろう生命のために。
    目の前で眠る、力を持たぬ幼い弟の為に。

    こんなもののために…!!

    自分の考えに、ツクヨミはぎくりと肩を震わせる。
    (私は今…何を考えた?)
    (否定するというのか…この世界を…そして同じ三貴子である、弟のスサノヲを)
    (いや、これは…嫉妬?)
    自分の心に沸いた猜疑心が、まるで黒い霧のように自分の心を覆いつくそうとしている。
    己の心がが分からなくなり、ツクヨミはアマテラスの身体をかき抱いた。
    「私にとっては世界よりも何よりも、お前の存在そのものがいとおしい…お前を護るためならば
    何でもしよう…だが…その心があの頃の…何もなかった頃の混沌に沈む様が、私は恐ろしい…!」
    この娘にはいつまでも笑っていてほしい。
    手を血で染めることなく、花を愛で大好きな歌を口ずさんでいてほしい。
    そして何より、その微笑みでこの乾いた心を照らし続けて欲しい。
    光に照らされ、影はより濃くその存在を地に落とす。
    それでも。
    何者も存在しない虚空、他者を知ることもなかったあの混沌の海に戻るよりはこの心は浮かばれる。
    「…今だけでよい。お前をこの腕で捕らえ、誰の目にも触れさせたくはない…」
    ツクヨミの呟きが、月のない夜の闇に解けて消えた。