Short Story

擬人化SS「風花、蒼穹に舞う」

  • 「もーえーのーはーん」
    遠くから聞こえてきた甲高い声に、燃神はぎくりと身をすくませた。
    今まさに将棋の駒を進めようとしていた手を止め、相手の爆神に「スマン、居なかったことにしてくれ」と片手を上げ、部屋の窓の障子を 開けそこから飛び降りる。
    爆神は「またか」と溜め息を付き、相手のいなくなった将棋台に向かい、一人黙々と駒を進める。
    ちょうど燃神と入れ替わりに、部屋の襖がスパーンと勢いよく空けられた。
    「爆のはん、燃神はん、来はってない?」
    ポニーテールを揺らしながら飛び込んできたのは元気娘の風神だ。 大きな目と八重歯が眩しい。
    問われ、爆神は無言のままふるふると首を横に振る。
    「さよか…どこ行ったんでなー、燃神はん」
    風神はそうブツブツとひとりごちながらピシャリと襖を閉め去っていく。閉められた襖の向こうから燃神を呼ぶ風神の声が響き渡る。
    「…どうしたもんかの」
    再び一人嘆息し、爆神はパチリと駒を打つ。

    物陰から辺りの様子をうかがい、声の主が遠ざかったことを確認すると、燃神はホッと胸をなで下ろす。
    「…やれやれ。四六時中追い回されちゃたまったもんじゃ」
    「もーーえーーーーーのーーーーーーーはーーーーーーーーーん!」
    頭上から降ってきた声にぎょっと目をむく燃神。
    上から飛び降りてきた風神を避けられず抱きつかれ押し倒されるように無様にすっ転ぶ。
    「て、手前…!」
    「あーん、やっと捕まえたーん」
    胴に両腕を回し頬ずりする風神をなんとか引き剥がそうと躍起になる。
    「い・い・か・ら離れろ!熱くてかなわねぇ」
    「熱いのはウチのハートやさかい。アンタの炎にも負けんウチの愛、受け取ってぇな」
    「受け取れるかドあほぅ」
    口でいいながらも、女相手では力の加減ができずむやみに振り払うこともできない。
    毎日のように追いかけ回され押し倒され、自分でも情けないとは思いつつ邪険にすることもできない。
    「こんなところ凍の姉御に見られたら…」
    そう言いかけ、後ろから近づいてきた人の気配にぎくりとする。
    流れる滝のような長い髪に細い身体を包む白装束。濡神の湖面のような瞳が二人を見下ろしていた。
    「ぬ、濡神…」
    燃神は自分の頬が引きつるのを感じた。そんなことお構いなしにじゃれつく風神を慌てて押しのける。 「ぬ…」
    「お二人とも…仲がよろしいのね」
    ふわりと微笑み、軽く会釈をして去っていく濡神。
    「ありゃ。濡神はん、行ってもーたん?ウチらのラブラブっぷりに当てられたんかなー」
    脳天気に笑う風神を問答無用で燃神は引き離した。
    突然のことにびっくりして目をパチパチさせる。
    今までどんなに嫌がられても、こんなに露骨に引き離されたことはなかったのに。
    「も、燃…」
    「お前ぇ。もう俺を追いかけんの、やめろ」
    はっきりと聞こえた拒絶の言葉。
    ポカンとなる風神を、いつにない厳しい視線で見つめる燃神。
    その視線に純粋な怒りを感じ、風神は思わず身をすくませる。
    「え…あの、ウチ…」
    狼狽える風神をよそに、何も言わず燃神は立ち去っていく。
    「も、燃神…」
    炎のような瞳に射抜かれ、すっかり怯えてしまった風神は、そこから立ち上がることもできず、燃神の言葉の激しさにようやく事態を把握する。
    (どないしよ…ウチ)
    (燃の兄ぃに嫌われてもうた…)
    (どないしよ…!!)
    急に溢れだした涙を拭うこともせず、風神は疾風の勢いでその場から立ち去った。

    中庭の池の横でうずくまっている風神を見つけたのは凍神だった。
    書類整理に明け暮れすっかり部屋に籠もりっぱなしだったので気分転換に中庭まで出てきたのだが。
    いつも元気に走り回っている風神の背中に元気がない。
    何かあったのかと声をかけたが。
    「凍姉ぇ…」
    涙声で振り返った風神。
    耳まで真っ赤になり、長時間泣き続けていたのか、少し目が腫れている。
    (かっ…かわいい…!?)
    女色癖のある凍神にしてみればこのシチュエーションは美味しいことこの上ない。潤んだ瞳に見つめられ、凍神は抱きついて押し倒したい衝動を寸でで堪える。
    必死に理性にしがみつき、冷静さを保ちながら風神の横に座る。
    「…どうしたんだい、アンタが泣いてるなんて珍しいじゃないかい?」
    「…」
    ひっくひっくとしゃくりを上げ耐えきれなくなったのか、凍神の胸に飛び込む風神。
    「な…ふ、風神?」
    「うわぁあああああああああん!!!!!」
    内心ちょっぴり役得だと思いつつ、子供のように泣きわめく風神の頭を優しく撫でてやる。
    「…一体全体…何があったっていうんだい?」
    ようやく少し落ち着いたのか、それでもまだすこし嗚咽混じりに、たどたどしく風神は口を開いた。
    「最近…燃の兄ぃ、ウチと遊んでくれへん。昔はあんなに仲良しだったのに…みんなでずーっと一緒にいられるのに…
    なんで燃の兄ぃはウチのこと、見てくれはらんのん?…ウチのこと、嫌いになってもうたん?
    こんなに兄ぃのこと好きやのに…なんでダメなん?」

    「くぉらぁあああ!!!燃神はおるかぁああああああああ!!!!!!!」
    地響きのような足音をさせ、ダンッと踏み倒された襖とともに、怒りの冷気をまき散らしながら突入してきた凍神に、花三神と燃神がぎょっとなる。
    「きっ…さまぁああああああああ!!」
    燃神の姿を確認するなりずかずかと部屋に入り込み、燃神の胸ぐらに掴みかかる凍神。
    「女子を泣かせるたぁいい度胸じゃないかい!男のくせに、ていうか鶏のクセに!!!万死に値するからとりあえず貴様、舌を噛んで死ね!!!!!!!!」
    「や、ちょ、待て姉御?俺には一体何のことやらさっぱり」
    ガクガクと揺さぶられ、怒れる猛牛と化した凍神に慌てて弁解する。
    こうなった凍神は止められない。部屋の隅で花三神が肩を寄せ合って青ざめた顔でガタガタと震えている。
    凍神の冷気に当てられ、室内の温度が一気に急降下する。畳に霜が降り、パキパキと軋んだ悲鳴を上げている。
    「トボけた事抜かしてんじゃないよ、このすっとこどっこいが!!風神がアンタに嫌われたって、一人で泣いてたんだよ!!!」
    「…風神が?」
    気が緩んだ隙をついて燃神の身体が宙に浮く。凍神の投げ技だ。
    受け身を取ることもできず、窓の障子を破って外に投げ飛ばされた。派手な音に花三神が可憐な悲鳴を上げながらビビッて逃げ出す。
    背中から地面に落ち、一瞬燃神の息が止まる。
    「…痛ぇ…!!」
    その頭上から凍神の殺人級のカカト落としが落ちてくる。
    「うおっ!!?」
    咄嗟に首を反らして避ける。燃神の頭があった部分に凍神が全体重をかけて落ち、派手に陥没する。
    「殺す気か、姉御…」
    「問答無用だ、馬鹿者が!」
    凍神は女だてらに体術を得意とする。踏み込みながら燃神の腹を狙って右拳を振るう。燃神はそれを肘でブロックし左のフックで反撃。
    凍神は一歩後退し、カウンターで上段回し蹴りを燃神の左側頭部に見舞う。
    岩をも砕く鋭い一撃を喰らい、燃神がふらつく。
    「悔しかったら打ち返してこい、ひよっこが」
    と言い、凍神はちょん、ちょんとジャブ。そのジャブに気を取られた隙に右ストレートが飛んでくる。頬に閃光のようなパンチを喰らい燃神は思わずのけぞった。
    「いっ…てぇな、こんにゃろ!!」
    邪魔になる着物を脱ぎ捨て構える。凍神もガウンを脱ぎ捨て、身を低く構えた。
    最初、燃神は凍神に当てると申し訳ないという気持ちがあった。相手は年上で自分よりも神格が高く、しかも質が悪いことに美人だ。
    特に顔はやめておこうと思ったが。
    それどころではない。
    そもそも掠りもしないのだ。
    燃神が左フックを打ち、それをわずかな上体の動きだけでかわす凍神。燃神は続けて右、左と連打するが、ことごとく凍神の両手に弾かれる。
    「図体ばっかでかくなりやがって。肝心なことは何一つ言ってないのかいこの洟垂れ小僧が!」
    「いつの話をしてんだ、いつの!!!!」
    パンパンと次から次へと攻撃を軽くかわされる。
    「そもそも燃の。優柔不断な貴様が悪い。好きなら好き、嫌いなら嫌いとハッキリさせればいいことだろう」
    何のことか思い当たりギクリと燃神の攻撃の手が緩む。そのがら空きになった腹に向かって容赦ない凍神の膝蹴りが決まる。
    ろくに防御もできず、燃神の身体が吹き飛び、離れの納屋に突っ込む。
    「…あの壊れた納屋、誰が直すと思ってるんでしょうね?」
    「お前さんだろう、蘇神」
    淡い微笑を浮かべたまま、何気に額に青筋が浮いている蘇神の横で、撃神が嘆息する。
    パラパラと落ちてくる木片を払いのけ、燃神はこみ上げてきた胃液を飲み込む。
    今のはかなり効いた。
    「貴様、まさか保険のつもりじゃないだろうな」
    「?」
    静かに近づいてくる足音に慌てて体勢を立て直す。
    「濡神にフラれた時の保険のために、風神をそばにおいているのではないかと、そういう話だ」
    「…なんだと?」
    凍神の周囲の空気が太陽の光を受けてキラキラと輝く。絶対零度の雪の結晶が彼女を取り巻いているのが分かる。
    「…もっぺん言ってみやがれ、この野郎」
    「何回でも言ってやるさ。貴様は濡神に拒絶されるのが怖くて、その逃げ場に風神を選んで可愛がってるだけに過ぎない。違うか?」
    狐にも似たいやらしい笑いに燃神は自分の体温が急激に上昇するのを感じた。
    轟音とともに炎の嵐が巻き起こり、納屋が跡形もなく吹き飛ばされる。爆心地にいた凍神は冷気で身を包み炎の嵐をやりすごす。
    「姉御…言っていいことと悪ぃ事があんだぜ」
    「ふん、やっと本気になったか」
    凍神の掲げた左手に、大岩のような氷塊が出現する。自分めがけて落とされたそれを、燃神は炎で焼き尽くす。
    凄まじい水蒸気に視界が閉ざされる。
    「ぬ」
    吹き付ける水蒸気を右手をかざして凌ぐ凍神。
    いきなり。
    背後から鋭い飛びまわし蹴りがくる。
    あまりの鋭さに、凍神は慌てて頭を下げてかわす。
    凍神も飛び後ろ回し蹴りを返した。
    その蹴りに、燃神が上段蹴りを合わせてくる。
    二人の蹴りが激突。
    その凄まじい攻撃に二人を中心に突風が吹き荒れ、水蒸気を吹き飛ばす。
    バランスを崩して尻餅をついたのは凍神のほうだ。
    体格のことを考慮すると仕方がないが、パワーではやはり男の燃神のほうが勝っている。
    凍神はブレイクダンスのように両足を振り回して一瞬で起き上がる。ちらりと周囲を見回すと、何事かと他の筆神たちが集まってきている。
    その中に二人を心配そうに見守る濡神の姿もあった。
    燃神が拳の連打を繰り出してくる。どの突きも下半身の「タメ」が効いているせいで防御した凍神の腕が痺れる。
    (少しはやるようになったじゃないか)
    かつての体術の愛弟子の成長に、顔には出さずほくそ笑む。
    (長引くと不利か)
    バックステップを繰り返しながら、凍神は濡神の背後を取る。
    「あっ…ず、ずりぃぞ人質なんざ!!」
    頭に血の上っていた燃神も、濡神の姿を確認し慌てて拳を引く。
    「とりあえずココではっきりしてもらおうじゃないかい。
    でないと…あたしがもらっちゃうよ?」
    後ろから濡神を抱きしめ、その頬に唇を寄せる。
    唇から妖しく舌をちらつかせ、濡神の右頬を軽く舐める。
    「きゃっ」と真っ赤になる濡神をますます抱きしめる凍神。
    その右手が濡神の胸をまさぐり、濡神はくすぐったそうに身をよじる。
    「ぁん、や…凍神、やめ…!」
    女同士が可愛くじゃれ合っているように見えなくもないが、女好きの凍神の手にかかると下心丸見えでいやらしいことこの上ない。
    「こっ、こ、こここ…こんのスケベ婆あ!!!!!俺の女に手ぇ出してんじゃねぇ!!!!!!」
    燃神の右腕から放たれた炎が鞭のようにしなり、凍神を追い払う。
    濡神から離れる瞬間、彼女の背中をトンと押し、燃神の目の前に押しやる。
    振り上げた拳の目の前に意中の佳人が押しやられ、燃神は慌てて拳を下げる。
    「それじゃああとは若い二人にまかせて」
    ホホホと笑いながら退散する凍神に今までの凍てつくような殺気は感じられない。
    茶目っけたっぷりにウィンクしてみせる凍神に、今までの乱闘騒ぎはこの場を作るための演技だったと気づく燃神。
    「…あの攻撃が全部演技かよ…」
    こっちは本気で殺されるかと思ったのに。
    ていうかあの蹴りはどう考えても本気モンだろう。
    ふー…と一息つく燃神の目の前で、口元を両手で覆い真っ赤になって視線をそらしたまま、濡神が困ったようにモジモジする。
    「あー…その、なんだ…」
    どう切り出していいものか、こちらも困ったように頭を掻く燃神。
    「さっきの…」
    「ん?」
    「『俺の女が』…っていうの」
    「うっ」
    その場の勢いでつい。
    スケベ根性丸出しの性悪ババアについカッとなって本音が。
    「あ、あれは、その、なんつぅか!!」
    「…嬉しかった…」
    頬を薔薇色に染めたまま、消え入りそうな声で囁いた濡神に、燃神も釣られて紅くなる。
    そんな燃神を少し上目遣いで見つめ、すこし屈むように促すと、その右耳に、濡神は今まで口に出せずにいた想いを囁いた。
    一瞬驚いたような顔の燃神。
    次の瞬間、ひしっと濡神を抱きしめる。
    その様子にすっかりギャラリーと化した筆神たちがやんやと喝采を送る。花三神の咲花ノ神だろう、まるで二人を祝福するかのように桜吹雪が舞い散る。
    「も、燃神…苦し…」
    「あ。お、おう、すまねぇ」
    嬉しさのあまり力の加減もせずに抱きしめられ、苦しそうに喘ぐ濡神に、燃神は慌てて腕の力を緩める。
    その濡神の後ろに、見慣れたポニーテールが揺れている。
    風神だ。
    「風神…」
    濡神から手を離し、風神と真正面から向き合うように立つ燃神。
    さっき凍神に言われた一言が胸を突く。
    『貴様は濡神に拒絶されるのが怖くて、その逃げ場に風神を選んで可愛がってるだけに過ぎない。違うか?』
    問われ、初めて気づいた。
    もしかしたらそうだったかもしれない。
    だが。
    「風神、別にお前ぇの事が嫌いになったわけじゃねぇ。俺は、お前ぇのことは妹だと思ってる。普通に好きだ。でも…」
    「あんな、燃の兄ぃ」
    言いかけた燃神の言葉をさえぎるように風神が笑った。
    「ウチな、兄ぃのこと好きやねん。んでな、濡の姉ぇのことも大好きやねん。だから、濡の姉ぇのことを好きでいてくれる燃の兄ぃが大好きや思うん…
    ウチのこの気持ち、多分恋愛とか、そういうんとかは違うんよ。ウチが兄ぃに恋しとるぅ、いうて…勘違いしとっただけやねん」
    どこか寂しそうにうつむき、微笑んだ風神。
    「だから、謝らんで?」
    再び顔を上げた風神はいつもの笑顔だった。
    燃神は一瞬不安そうに眉をしかめたが、邪気のない風神の笑顔に、自分自身が救われるのを感じた。
    「…ありがとな」
    「こちらこそ、おおきに!」
    差し出された手を燃神が握り直す。
    なんとか仲直りできたと一息つき、「ほな」と手を挙げ、風のように走り去っていく風神。先に屋内に入っていた凍神の前で立ち止まり、にっこり微笑んでみせる。
    「言いたいこと言えてスッキリしたわ。凍姉ぇ、おおきに」
    「…よく言えたね」
    頭を撫でられ、笑顔のまま、風神の目から大粒の涙がこぼれた。

    空を横切る風花に、ふと、アマテラスが顔を上げた。
    「…どうかしたかい、アマテラス君?」
    隣で巻物を広げていたウシワカに、アマテラスはにっこりと微笑んでみせる。
    「風が、とっても気持ちいい」
    季節を運ぶように、想いを繋ぎ流れて凪ぐ風。

    今日も、どこかで流れて彷徨い、人と人を繋ぐに違いない。

    そんな気まぐれな、だが心優しい風に、アマテラスは静かに微笑みかけた。
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    何コレ(´・д・`)
    大神プレイヤーが読んでも意味不明すぎる内容で本気ですみません(((( ;゚Д゚)))))ガクガクブルブル
    ていうかあなた達、どこにいらっしゃるんですか!!
    多分タカマガハラで復興してる最中なんじゃないかな、うん!
    風神は割合後にほうにやってきた筆神で、筆神の中では年少組になります。
    それもあって先輩筆神たちを「兄ぃ」や「姉ぇ」と呼んだりしているのですが、決して血縁があるわけではありません。
    燃神と濡神はお互い意識はしていたんだけどなんとなく言えず終いで…といった感じです。
    燃神が色々アプローチかけてはいたんですがいつもビビられて泣かしてばかりだ、とか。
    個人的に燃濡はラブいです( ノ∀`)ペチョン☆
    とりあえず四つ葉様に向かって土下座しておきます_| ̄|●ヘヘー