Short Story

筆神擬人化SS「燃神と幽神の二人言」

  • 「燃えっちぃ〜!お酒飲もー、お酒ぇ」
    「あ?なんでぃ、藪から棒に」
    真昼間にも関わらず、へらへらと笑いながら愛用の瓢箪と二人分のお猪口を片手に幽神が
    燃神を呼び止める。
    「えへー。神木村のお神酒なんだけどー」
    「神木村の」と聞いて燃神の視線が思わず瓢箪に移る。
    ナカツクニで作られてる酒は一通り吟味したが、神木村のクシナダが作る酒は、女が作る酒とは
    思えないほど深くまろやかで清々しく、舌に絡まる絶妙な甘さが香ばしい。
    タカマガハラの復興にかまけていたここ何年か、酒らしい酒も飲んでいない。
    たまにはのんびりほろ酔いするのも悪くはない。
    むしろ幽神が酒に誘いにくるときは何かしら相談事がある時だ。
    断る理由もなく、昼食を終えて人気のない御饌殿ならじっくり聞いてやれるだろう。
    夕食の仕込み準備をしていた天神族の少女に頼んで肴になるような簡単な料理を作ってもらう。
    その間に幽神と燃神は早速互いのお猪口に酒を注ぎ口につける。
    一口目は少し舐めるようにゆっくりと。
    懐かしい味に、幽神でなくとも頬が緩む。
    「…相変わらず美味ぇな…」
    「でしょ〜。おかーさんになってからぁ、ますます腕が上がったっていうかぁ〜」
    「…で、なんだよ?」
    「え?」
    「なんか話があんだろ」
    「えへ?えへへ〜えっとねぇ?」
    言っちゃっていいのかなぁ?と首をかしげ、周囲の様子を伺う。
    天神族の少女が揚げ物の盛り合わせを運んでくれ、彼女が厨房の奥に消えたのを確認してから
    「んとね?」と切り出す幽神。

    「2日前の夜、濡ちゃんの部屋で何か進展あったのかなぁ?って」

    ぶはぁっ!!!!

    お猪口に半分残っていた酒を口に含んだまま出し抜けにそう問われ、燃神は盛大に噴き出す。
    「んきゃぁああああ!!!!?きったなーい!!もったいなーい!!!」
    「おめ…なんでそれ、知って…!!」
    口元をぬぐいなら怒鳴ろうとする燃神だが、酒が噎せて言葉にならない。
    「…あの…大丈夫ですか?」
    厨房からひょっこりと顔をのぞかせた天神族の少女に「へーき、へーき」と異口同音に二人で答え
    それ以上少女を近づけない。少女は心配そうに首をかしげたが、「いいからこっちくんな」という
    燃神の無言に圧力にすごすごと厨房の奥に引っ込む。
    「おめぇ…どっから見てやがった」
    「えへへ、えっとね?お散歩がてらに木の上に忍んでたらぐーぜん☆」
    普段へらへらして肝心なとこで役に立たなそうなのになんでそんな時に限って…!!
    「も、燃っち?あ、あのね?人殺しそうな勢いで睨むの、やめてくんない?」
    「…姉御や他の連中にはしゃべってねぇだろうな」
    「しゃべってたら今頃燃っち、姐さんのいいオモチャになってると思うナー」
    確かに。
    オモチャどころかサンドバック代わりにされてるかもしれない、。
    「…別に、何にもねぇよ」
    「うっそだぁー。何にもないのにムキになっちゃってぇー変なのぉ〜。ぜぇーったいなんかあったでしょ?でしょ?」
    そっぽを向く燃神に幽神は頬を膨らませる。
    「あたしと燃っちの仲なのにぃ」
    一体どんな仲なのか。
    正座させて小一時間ぐらい問い詰めてやりたい。
    喉奥まででかかった言葉を酒と一緒に飲み込み燃神は一息つく。
    「一晩中一緒にいてえ〜、寝台のそばで手ぇ繋いでただ寝てただけじゃないっしょ〜?」
    「…お前絶対どっかから覗いてただろ?」
    「ほえ?」
    気まずそうな燃神の視線に、幽神も飲みかけた手を止める。
    「…え。
    もしかして本気で何もなかったの?部屋まで行って?」
    「…まぁな」
    鳩が豆鉄砲食らったらきっとこんな顔なんだろうなと、脱力しながら燃神は幽神に視線を変えす。
    開いた口をぱくぱくさせながら、しかめっ面をしてみせたかと思うと「うーん」と天井を仰ぎ、
    今度は腕を組んで首をかしげながら「うーん」と唸る。
    「なんでお前ぇがそんなに悩むんだよ」
    「え〜…だってぇ…」
    「ちょっと風邪気味でフラついてたから部屋まで送ってやったんだよ。そしたら…」
    「そしたら?」
    そこで一瞬迷い、口をつぐむ燃神。
    観念したように息を吐きながら自分のお猪口に酒を注ぐ。
    「『一人にしないで』って。着物のすそ掴れて…子供みたいに泣きながら言うんだぜ?」
    確かに濡神は気が小さく若干涙腺が弱いのかよく泣いてばかりいるが。
    根は優しく、面倒見もいいしちゃんと自分の意見をもったどこにでもいるような女性だというのが幽神の濡神に対するイメージ。
    臆病で泣きやすいが、自分からは決して弱音は吐かない芯の強い女性だ。
    少し意外な濡神の一面に幽神も驚く。
    「あいつがここに来る前な…病弱でなかなか宮の外に出ることがなかったんだと。
    巳族の長だったあいつの母親は、あいつが熱出して寝込んでるときも公務に明け暮れて
    見舞いも様子見程度にしか来なかったらしい。」

    「お母様は…とても自分に厳しい方で…だから、私が許せなかったのかもしれないの…
    私、昔はしょっちゅう寝込んでたから…お母様は、いつも私の顔を見て…すぐに
    部屋を出て行かれたわ…私…もっとお母様とお話したかった…すごく…
    すごく、心細くて…一人で眠るのが怖くて怖くて仕方なかった…
    もう、お母様に会えなくなるような気がして」

    そううわ言のように呟きながら濡神は決して燃神の手を話そうとはしなかった。
    大きな目から、真珠のような大粒の涙を零しながら。
    「んなの聞いたら…勃つもんも勃たねぇよ」
    「そっかぁ…」
    飲みかけたお猪口を置き、うつむく幽神。
    (そりゃイキナリこんな話聞いたら落ち込むよな…こいつと濡神、仲いいし)
    「…んも〜なんだよぅ、それぇ…」
    ぷぅっと頬を膨らませ、そのまま食台の上に顔だけ乗っけてぶーたれる幽神。
    「まぁ友達っつっても言いにくいことも…」
    「あたし一人がエッチみたいじゃんよ〜…」
    「あ?」
    台に顔を乗せたまま左右に身体を揺らし始めた幽神。
    どうやら言い分に若干ズレがあるらしい。
    空いたお猪口に酒を注いでやろうと瓢箪を掴み、燃神はぎょっとする。
    「うおっ!?おま、いつの間に…!」
    まだ自分は2杯しか飲んでいないはずなのに、瓢箪がやけに軽い。
    この軽さだとあと2・3杯あるかないか。
    「せっかくの酒を…」
    「燃っちのバぁ〜カ、むっつりスケベ〜、チキンやろー」
    「おい、最後のは聞き捨てならねぇぞ?」
    「あたしだってぇ〜…大聖さまに触りたいし触られたいのに〜ぃ」
    「何ぃ?」
    予想外の発言に、思わず拳を振り上げたままの姿勢で固まる。
    「あたしだって大聖さまが好きなのにぃ〜!」
    そのまま卓上につっぷしメソメソと泣き出す幽神に燃神はどうしたもんかと首をかしげる。

    なんだ、これは、もしかして、もしかすると?

    「お前の相談って…大聖のことか?」
    問われ、卓上につっぷしたままこくんと頷く幽神。
    「燃っち…大聖サマと仲イージャン?」
    「まぁな」
    お互い似た性格のせいかよくつるんでるのは確かだ。
    熱くなりやすく、直情すぎて不器用なところにも親近感がわく。
    「しかしよりによって大聖か…」
    思わずぼそりと独りごちる。
    裏表のない性格と、特に女性に対する紳士的な言動で女性からの人気は絶えないのに、三貴子という
    特別な立場も手伝ってか、女性関連の噂を聞くこともない。
    それもこれも。
    「あいつのシスコンは異常だよなぁ」
    タカマガハラに戻ってきてからというもの、姉であるアマテラスから離れようとしない。
    離れられずにいるというのが正しいか。
    三貴子の長兄であるツクヨミがいなくなってからというもの、特にナカツクニでの一件もあり、
    スサノヲは少しでもアマテラスの助けになろうと姉のそばを片時も離れずにいる。
    「…ナカツクニの一件、かなり堪えたらしいぜ」
    「…だろうねぇ…」
    元々ナカツクニはスサノヲの領分だ。
    ツクヨミは月の國を、アマテラスはタカマガハラを、スサノヲはナカツクニの守護を任されていたが
    オロチのタカマガハラ襲来の際、先陣を切ったスサノヲは結界に守られたオロチになす術もなく敗れ、
    魔の箱舟と化したヤマトの中に封印されてしまった。
    故にナカツクニを守護していた神力が弱まり、ナカツクニでの騒動を引き起こした。
    本来ならばオロチ程度のタタリ場ならばサクヤ姫のご神木の力をもってして払い除けることなど
    造作もない。
    だがその神力も、土地神であるスサノヲの存在あってのこと。
    力の源であるスサノヲが封印されてしまい、その従属神であったサクヤ姫も力を失ったナカツクニを
    牛耳ることなど、オロチにはたやすいことだった。
    何より妖怪退治の旅すら、オロチとの戦いで力を失ったアマテラスに押し付ける形になってしまい、
    姉思いのスサノヲにしてみれば腹の一つや二つ掻っ捌きたくなるような思いだろう。
    そこで燃神はふと気づく。
    「もしかして、あん時からか?ヤマトでオロチと大聖が戦った…」
    こくんと小さく頷く幽神。
    ヤマトに封印されていたスサノヲはアマテラスによって封印を解かれると、因縁の対決とばかりに
    オロチ退治を申し出た。
    その時にスサノヲと共に戦ったのが幽神だ。
    オロチ退治に、結界を破るための酒は欠かせない。危険を承知で幽神は無理を押してスサノヲに同行し、オロチ退治に挑んだ。
    「あのね、大聖サマね?『お酒注いだら下がってていいから』って言ってくれたのね?
    でも、でもやっぱりそれだけじゃなくってちゃんと大聖サマのお手伝いしたかったの…」
    幽神は顔を上げ、両手をグッと握り締め少しうるんだ目で卓上を見つめる。
    「あ、あたしだって筆神だもん、くのいちだもん…大好きだったタカマガハラをめちゃめちゃにしたオロチなんて、
    ぎったんぎったんにしてやりたかったもん…凍姐さんみたいに強くもないし、濡ちゃんみたいに回復もしてあげらんないけど… でも戦いたかったんだもん」
    霧を操り相手を惑わし、的確に急所を突き相手を瞬殺するのが幽神の得意戦法だ。
    それはあくまで不意打ちの攻撃であり雑魚相手ならいざ知らず、オロチのような巨大妖怪相手では
    正面向かっての一対一でまず勝ち目はない。
    攻撃力もそこそこ、支援としての力量も蘇神や濡神にはとうてい及ばない。
    中途半端な自分が足手まといになるのは分かりきっていた。
    「そしたら大聖サマね…『俺の後ろは任せた』って…」
    お猪口に注がれた酒に口をつけ、ほうっと一息つく。
    「大聖さまが、あたしに『後ろを任せる』って…言ってくれたの」
    思わず口元の緩んだ幽神に「そっか」と燃神も釣られて微笑む。
    「あたし中途半端で…いっつも待機組だったから…そぉいう風に頼りにされたことがなかったから、
    すんごい、嬉しかったのね」
    「おぅ」
    「オロチ倒したあともね、『お疲れ様』ってあたしの手握ってくれたのね…手がね、手がね」
    何を思い出したのか「にへらぁ」と笑い崩れ、酒とは別の理由で頬を染める。
    「大聖さまの手ってね、すごいのね!おっきくて硬くってがっしりしててね!筋肉の繊維がしっかりしてて
    よく伸びそうでさ!腹直筋・大胸筋・三角筋・上腕二等筋とかぐーんって伸びてるんだろうなぁ…!
    腹筋とか腹筋とかぁ…さ、触りたいなぁ…」
    「触りてぇのかよ」と笑いながら思わず突っ込む。
    筋肉の話になるとやたら饒舌になるのは暗殺・整体両方に応用できるだけの豊富な知識を持つ幽神ならでは。
    理想の筋肉とはなんであるかを嬉々と語り気が済んだのか、ぐびりと最後の酒を煽り一息つく。
    「…あの身体にね、触りたいって思うの…」
    「ん」
    「あの手で、あたしに触って欲しいって思うの」
    「そうか」
    「…あたしってエッチ?」
    「安心しろ、俺も大概には助平だ」
    「うん、知ってる」
    顔を見合わせ、どちらからともなくくすくすと笑う。
    「お前、俺にそうして欲しいって思うか?」
    「ううん」
    「ならいいんじゃねぇか?」
    「…うん」
    それはすなわち相手に対して好意を抱いているということ。
    好きだから、恋しているから。
    他でもない大好きな人だから。
    ならば求めるのは当然のことではないかと燃神は諭す。
    誰かが誰かを想い求める気持ちにやましいことなど何もない。
    「えへ…そっかぁ…」
    「悪いことじゃないんだぁ」とホッとしたように笑み崩れる幽神に、こいつにも人並みに悩みがあったかと
    声に出さず独りごちる。
    いつもへらへら笑って人をおちょくってばかりで、人の色事ばかりに首を突っ込んでは何かしらと
    余計な入れ知恵をしてひっかき回して楽しんでるだけやつかと思ったが。
    まぁ自分で恋愛してるなら他人事にいらん口出しもしなくなるだろう。
    「ありがと、燃っちぃ。ちょっと安心したぁ〜」
    「おぅ」
    「んとね、お礼にね、いいこと教えてあげるぅ〜」
    「なんだよ」
    「えっとね、寒い日にはぁ、恋人同士で湯豆腐つつくのがいいんだって」
    「あ?なんだそりゃ」
    「セックスレスな二人にはいいんだってぇ〜」
    「だからそんなんじゃねぇつってんだろ!!!!」
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    あれ…これってオチてる…?オチてる???((((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
    相変わらずのひどい捏造な上、勢いで書いたのであちこちおかしいところがあるかと思いますが
    脳内補完でお願いします。
    ていうかなんだコレ(´・д・`)
    バレンタイン用になにか可愛い女の子らしいSSを書こうとしたらこんなことに。
    なんだお前ら、欲求不満か(´・д・`)
    ていうか欲求不満はあたしか(´・д・`)サーセン
    ちなみに湯豆腐云々はDrコパのお話から(´∀`*)
    ていうかこれが書きたかったんだ(*゚∀゚)=3