絵板ログ・其の3


  • 「あに様、あに様!私もう嫌!なんでこんなことしなくちゃいけないの!?
    私、もう誰も殺したくない!」

    これでもう何度目だろう。

    天地開闢より数百年が経とうというのに、このナカツクニの妖怪どもの数は一向に減ろうとしない。
    天叢雲剣を振るい妖怪退治をする日々に、アマテラスの精神がすり切れている。
    優しい娘だ。
    この娘にとっては妖怪たちでさえ天神族や人間と同じ、慈しむべき生命なのだ。
    だが。
    「…それでも、斬らねばならぬ」
    私の言葉にアマテラスの小さな肩がびくりと震える。
    「スサノヲならば何も躊躇いなく、お前の為に喜んで妖怪退治に励むだろう。
    だが、あれの力では妖怪たちを滅するだけ。天叢雲剣を振るい、妖怪たちを浄化してやれるのは…
    アマテラス、お前だけなのだ」
    アマテラスは私の胸に顔を埋め、嫌々と首を振るだけ。
    「…よくお聞き、アマテラス」
    アマテラスの乱れた銀髪を撫でてやりながら、宥めるようにそっと、ゆっくり語りかける。
    「お前にとっては、たとえ妖怪たちであっても、その生命の光が愛おしいのだろう。
    だから傷つけたくない、殺したくない…だが、あやつらは生命でありながら、我々とはまったく逆の因果律をもつ者たち。
    我らとは、相容れぬ者たち…故に、斬らねばならぬ…分かるね?」
    アマテラスは答えない。
    嗚咽混じりに小さく呻いただけ。
    「それに…スサノオの力ではただ滅するだけだが、お前の力ならば、彼らに来世を約束することができる。
    お前の力で浄化された魂は我が内の闇で一時の休息を経たのち、新しい命として来世に生まれ変わる…
    我らと同じ因果律に加えてやることができるのだ。それができるのは、アマテラス…お前だけなのだよ」
    光と闇を繰り返して巡るのが世の理。
    その中で生命は生まれてくる朝と死んでゆく夜を繰り返す。
    我らの役目は、その理を守り続けること。

    優しすぎるこの娘に、運命はなんという重荷を課すのだろう。

    何度変わってやりたいと思ったか。

    何度己が宿命を呪ったか。

    きっとスサノヲも同じことだろう。
    我らは神でありながら、己の宿命から逃れる術を知らない。

    「何故…私たちは同じ世界に生きることができないの?」

    「光など望まぬ。すべての生命よ、ただ一つの闇にすべてが抱かれよ。
    神などいらぬ、理も必要としない。ただ一人、皇がいればよい」

    「こんな世界なんて、消えてしまえばいいのに」
    本気でそう思った。

    「兄上も姉上も、遺される者の気持ちを考えたことはあるのか!」



    ああ…神とはなんと無力なのだろう…。
    対オロチ戦で大聖と幽ちゃんが組んでればいい。
    そしてそこから恋が芽生えるといい。
    グレンラガン8話を見てたらしい。